― 還暦で受けた、はじめてのTOEIC ―
英語をもう一度学んでみよう。そう思い始めた頃、私はふと考えました。「いまの自分の英語力は、どのくらいなのだろうか。」
長い間、英語から離れていました。学生時代に学んだ記憶はあるものの、それがどれほど残っているのか、自分でもよく分かりません。けれど、これから学び直すのなら、まずは現在地を知っておいた方がいいのではないか。そう思い、TOEICを受験してみることにしました。
目標は、なんとなく600点。特別な根拠があったわけではありません。「それくらい取れたら、少しは英語が分かるようになるのではないか。」そんな、淡い期待のようなものです。
試験の直前、娘が一冊のテキストを差し出してくれました。それは、娘が学生時代に受験のために使っていた、何年も前のTOEICの公式テキストでした。「お父さん、これ使えば?」その言葉に背中を押されるように、私は試験前に少しだけページをめくりました。
そして迎えた試験当日。会場は立教大学でした。おしゃれなキャンパスに囲まれた試験会場に足を踏み入れると、周囲には若い受験生の姿がたくさんありました。
その中に、還暦を過ぎた私が一人。少し場違いな場所に来てしまったような感覚がありました。それでも「まあ、いいか」と思いながら席に座り、静かに試験の開始を待ちました。
リスニングが始まると、英語の音声が一気に流れ始めます。知っている単語も、確かにあります。けれど音は次々と流れていき、途中からは意味を追うというよりも、英語の音がただ耳を通り過ぎていくようで、内容はまったく追えませんでした。
リーディングも同じでした。文章を追っているうちに、時間がどんどん過ぎていきます。最後の方は、ほとんど時間がありませんでした。気がつけば、回答用紙は“塗り絵”のような状態になっていました。
マークシートを見つめながら、「これは、かなり厳しいかもしれないな」と思っていました。試験が終わったとき、正直なところ手応えはまったくありませんでした。「ほとんどできなかったな。」そんな感覚のまま、会場を後にしました。
そして、しばらくして結果が届きました。
リスニング245点、リーディング95点。合計340点。
その数字を見たとき、私は少し意外な気持ちになりました。「思っていたより、取れているな。」もちろん高い点数ではありません。英語力としては、まだまだこれからです。
それでも、この数字は私にとって大切な意味を持っていました。ここが、私の現在地。ここから英語の学びを始めていくのです。
340点という数字は、決して誇れるものではないかもしれません。けれど、長い時間離れていた英語の世界に、私はもう一度戻ってきました。それだけでも、小さな一歩だったのだと思います。
その数字は、静かに今の私の現実と現在地を教えてくれていました。


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